黒留袖と言えば、結婚式で新郎新婦に母親が着ているのを思い浮かべますが、そもそも黒留袖ってどんな着物か意外に知らないですよね。
結婚式で着られるだけあって格が高いのは何となく分かっていても、マナーや決まり事などちゃんとわかってないと、誰かに失礼にあたってもいけません。
着物の場合は、着物の「種類」「文様」「紋の数」「帯との組み合わせ」など様々な違いで格が変わってきます。
そこで今回は、黒留袖のマナーや決まり事や、着るときに必要な末広(扇子)や紋の数など
「黒留袖ってどんな着物?」
を紹介したいと思います。
黒留袖はいつ着る着物?
黒留袖は、現代では結婚式や披露宴で着ることができる既婚女性の第一礼装です。
第一礼装とは、結婚式やお葬式など冠婚葬祭、各種式典で着るものの中で一番格が高い礼装のことで、黒留袖の場合は「主催者」側が着るものになります。
西洋のイブニングドレスに相当するものですが、イブニングドレスのように時間の制約はなく、昼夜問わず着る事ができる着物です。
黒留袖は、もともとあった裾だけに吉祥模様が施されている留袖が、明治末期ごろに西洋の「ブラックフォーマル」の影響を受けて黒になった着物で、お祝い事に着用します。
黒留袖は誰が着て良い着物?
黒留袖は主催者側の既婚者、すなわち新郎新婦の母親をはじめとする親族(祖母、姉妹、伯母(叔母))の既婚女性と、仲人夫人が着ることができます。
結婚式や披露宴でよく見かける黒留袖は新郎新婦の母親が着ている姿をよく見かけますが、それ以外の親族でも着て良いのですね。
意外に知られていないのが両家の母親は仲人夫人の格に準じますが、仲人婦人よりも目立ってはいけないという事です。
仲人は新郎新婦の立ち会いやサポートをしたり、両家を取り持つ役割を受け持ってくれる立場なので、両家の母親は仲人に敬意を払い、柄付けが一歩下がった黒留袖にするとよいでしょう。
黒留袖のコーディネートのマナーや決まり事
黒留袖は、既婚女性の第一礼装なのでコーディネイトで気を付けたい下記の部分についてマナーや決まり事があります。
- 紋
- 衿
- 帯
- 帯揚げ・帯締め
- 末広(扇子)
- 草履・鞄
主に結婚式や披露宴で親族が着る事になる黒留袖の、相手の親族や招待者に失礼にならないマナーや決まり事にそったコーディネイトを順番に紹介します。
黒留袖の紋
黒留袖の紋は染め抜き日向五つ紋という決まりがあります。
ちょっと名前が長すぎてわかりにくいですので『染め抜き』『日向紋』『五つ紋』と一つずつ分解して紹介します。
紋の染め抜きとは
染め抜き日向五つ紋の染め抜きとは、紋の入れ方の表現方法です。
紋の入れ方には、格の高い順に下記の4つの方法があります。
- 染め抜き紋(抜き紋)
- 石持ち入れ紋
- 縫い紋
- 貼り付け紋
第一礼装である黒留袖は紋の入れ方も一番格の高い紋の入れ方の染め抜き紋になります。
紋の日向紋とは
染め抜き日向五つ紋の日向紋とは紋の表現方法です。
紋の表現の仕方には格の高い順に下記の3つの方法があります。
- 日向紋(陽紋)
- 中陰紋
- 陰紋
染め抜き日向紋
染め抜き中陰紋
染め抜き陰紋
表現方法も白で色が抜かれている面が多く、一番格が高い日向紋を黒留袖で使います。
紋の五つ紋とは
染め抜き日向五つ紋の五つ紋とは紋の数になります。
紋の数は格の高い順に3つあります。
- 五つ紋
- 三つ紋
- 一つ紋
紋は入れる場所は下記に決まっており、第一礼装の黒留袖は全ての場所に紋が入っている五つ紋になります。
- 前紋…胸より少し上の左右。
- 背紋…衿付けの約5.7cm下がった背縫い。
- 袖紋…袖の肩山から約7.5cm下がった左右の袖。
黒留袖が、既婚女性の中で一番格の高い着物になりますので、紋の入れ方も一番格の高い入れ方にするという事がわかりますね。
黒留袖の衿
黒留袖の衿は喜びを重ねたいという思いから昔は半襟に白羽二重(しろはぶたえ)を二重に重ねて着ていました。
現代はそれを省略可して、着物は仕立ての際に白半襟を付けているように見える比翼仕立て(ひよくじたて)という仕立て方になっています。
長襦袢に塩瀬の「白」半襟を付けて、比翼仕立ての着物を着る事で白羽二重を二重に重ねてきているように見えるという事ですね。
最近の半襟には刺繍の入った衿や白でも織物の衿など種類が豊富ですが、黒留袖は白羽二重が基本で、刺繍襟や織の半襟はおすすめしません。
羽二重とは塩瀬羽二重の略なので基本の塩瀬羽二重の白半襟が良いでしょう。
黒留袖の帯
黒留袖に合わせる帯にもいくつかマナーや決まり事があります。
帯の種類や柄の付け方、結ぶ方などを紹介します。
黒留袖に合わせる帯の種類
黒留袖に相応しい帯は、丸帯もしくは袋帯になります。
丸帯とは、広幅一枚で幅広くおられた物に帯地に芯をいれ、半分に折って縫い合わせて作られた帯です。
丸帯はどのような結び方をしても柄が出て豪華な印象ですが、裏表に柄があるので厚みがあり、重くなるので現在はあまり使われなくなっています。
袋帯は、表には柄があり、裏は無地の記事を縫い合わせて仕立てた帯で、丸帯に比べると軽く扱いやすいものとなっていますが、最近の袋帯には裏表の両面に柄がある物も見られますね。
本来は、丸帯が一番格の高い第一礼装でその次に袋帯という位置づけですが、現在では丸帯よりも袋帯の方が主流になり黒留袖にも使われます。
黒留袖に合わせる帯の柄付け
袋帯は柄付けによって格の高い順に『全通柄』『六通柄』『お太鼓柄』の3種類に分けられます。
全通の袋帯
六通の帯
お太鼓柄の帯
黒留袖には帯を絞めた際に全面に柄が見える全通柄もしくは六通柄の袋帯を合わせると良いでしょう。
お太鼓柄の袋帯はカジュアルな帯の種類になりますので、黒留袖には不向きです。
黒留袖に合う帯の結び方
黒留袖にはお慶びが二重に重なるようにという意味がある、おめでたい席にぴったりの二重太鼓で帯を結びます。
二重太鼓結びとは、お太鼓部分が二重になる事をいい、現代の帯の結び方でもっとも基本的な結び方です。
礼装から普段結びまで幅広く結ぶ事ができる結び方なので、第一礼装の黒留袖にも結ばれますね。
黒留袖に合わせる帯揚げ・帯締め
黒留袖に合わせる小物(半襟、帯揚げ、帯締め、足袋)は基本的に『白』という基本的な決まり事があります。
最近の帯揚げ・帯締めも多くの種類がありますで詳しく紹介します。
黒留袖に合わせる帯揚げ
基本的に白の小物を合わせるのが黒留袖のコーディネートの決まり事ですが、男性がフォーマルの白ネクタイをするのと同じで、白地に金銀の色が入った物も大丈夫です。
生地は、絞りや縮緬や綸子などが一般的によく見かけられますね。
黒留袖に合わせる帯締め
帯揚げ同様、基本的に白の小物を合わせるのが黒留袖のコーディネートの決まり事ですが、帯締めにも形や種類がいくつかあります。
帯締めの形と格
礼装用の帯絞めは大きく分けて『平打ち』『丸組み』『丸ぐけ』に区別されます。
平打ちの帯締め
丸組みの帯締め
丸くげの帯締め
平打ちが一番格が高いと言われる方と、それぞれの形に格の差は無いと言われる方に分かれます。
以前は礼装にも丸くげを使われていたのですが、現代は丸組みと丸くげで合わせている人はあまり見かけなくなり、平打ちが多く見られますね。
帯締めの色
黒留袖に合わせる帯締めの色は帯揚げと同様に、白と金銀の色が入った物が合わせられます。
白に一か所だけ金銀の色が入っている帯締めは、他人が見た場合の右側(自分の左側)に金銀の色がくるように結ぶのが決まり事です。
黒留袖の末広(扇子)
黒留袖を着る時の決まり事に他人が見た場合の右側(自分の左側)の帯と帯揚げの間に末広(扇子)を挿しという事があります。
末広とは黒塗りの親骨で、両面が金銀の紙が貼られている物で、祝儀扇(しゅうぎせん)とも呼ばれます。
黒留袖の末広は帯締め帯揚げとセット売られているのをよく見かけますね。
末広のマナーとして、パタパタと仰ぐ事は避けましょう。
儀礼の際にコーディネートの形として必要になるもので、殆ど実用性は無く暑さしのぎのためには使用しません。
手に持つ際のマナーは、右手で要を持ち左手は末広の先を支えるように添え、金の側を外(お客様側)銀の側を内(自分側)に向けて持つようにしましょう。
黒留袖の草履・鞄
黒留袖のに合わせる草履や鞄はセットで揃える事が多いですね。
その際に気を付けたいマナーは『金』『銀』『白』が基調の礼装時に相応しい上品さと高級感がある格調高いデザインにすることです。
素材は『帯地』『エナメル』『合皮』『本革』色々あって迷ってしまいますが色使いのマナーを守っていれば、基本的にどれを選んでも大丈夫です。
主に使用されている上記の素材別に紹介します。
西陣織セット
エナメルセット
合皮セット
本革セット
黒留袖は紋の数や、合わせる小物の色など様々なマナーや決まり事がありますが一度覚えてしまえば、それほど難しい内容ではありません。
主に身内の結婚式や披露宴に着る事になりますが、一生のうちに何度も訪れる場面ではないぶん機会が訪れたら一度は着てみたい着物ですね。