着物の訪問着とはいつ着るもの?付け下げや色留袖との違いは?写真付きで紹介
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着物と言ったら「訪問着」を思い浮かべるほど、着物の中では代表的な種類の訪問着ですが、
「訪問着はいつ着たら良いの?」
「(同じ様に見えるのに名前が違う)付け下げや色留袖とはなのが違うの?」
など、いざ訪問着を着ていこうと思うと、ちょっと悩んでしまいますよね。
そこで、今回は「訪問着」について、いつ着る着物なのかや、付け下げや色留袖との違いなどを紹介したいと思います。
最後に訪問着を着る際に意識するだけで、より綺麗に見える「ちょっとした裏技」なども紹介します。
訪問着はいつ着るの?

着物の「訪問着」ってとても華やかで、日本女性なら一度は着てみたい憧れの着物ですよね。
訪問着に限らずどんな着物もどこに着ていくかを考える時、洋服と同じで訪問先のドレスコード(普段着で良いのか?礼装が良いのか?中間ぐらいで良いのか?)に従って考えます。
“準礼装”の訪問着を着たければ、訪問先のドレスコードが”準礼装”の場所に着ていけます。
“略礼装”の訪問着を着たければ、訪問先のドレスコードが”略礼装”の場所に着ていけるという事ですね。
「”準礼装”や”略礼装”とは何?」
という事ですが、訪問着は紋の数によって格(準礼装や略礼装)が決まります。
- 紋の数が3つの三つ紋なら”準礼装”
- 紋の数が1つの一つ紋なら”略礼装”
になります。
※格とは、そのものの値打ちによってできた段階・位・身分・等級などを表すもので、今回の場合は訪問着の位ということになりますね。
準礼装の訪問着が着ていける場所
“準礼装”として訪問着を着るなら、結婚式や、入学式にお茶会などに着ていけます。
その様な改まった式典に訪問着を着ていくと、その場の格も雰囲気も一気に上がるのでおすすめです。
略礼装の訪問着が着ていける場所
“略礼装”として訪問着を着るなら、お宮参りや七五三、身内の行事ごとや、ちょっとしたパーティーなどにも着ていけます。
身内でのお祝いごとや、通過儀礼(つうかぎれい)などの付き添い役の母親などにピッタリですね。
通過儀礼とは人生で通過していく過程毎の儀式(お宮参り、七五三、十三参り、成人式など)儀礼。人生儀礼(じんせいぎれい)ともいいます。
最近は紋を入れずに訪問着を仕立てる人も多く、より軽装で街着のおしゃれ着として着て行く場合もあります。
付け下げと色留袖との違い
訪問着と同じように着物に季節や自然をあしらった模様が描かれている着物が付け下げと色留袖になります。
ですが、
「着物に鮮やかな模様が描かれているのは訪問着と一緒なのに、いったいどこが違うのか?」
とても、わかりにくいですね。
そんな「訪問着」「付け下げ」「色留袖」の違いは、模様の描かれ方と、仕立てる前の状態で見分ける事ができます。
実際にどのように見分けるのか「付け下げ」と「色留袖」別に見ていきましょう。
付け下げの特徴
付け下げは仕立てたときに模様が、着物の前と後ろの両面が上向きに描かれている着物をさします。

お仕立ての前は反物(一枚の長い布)の状態で丸めて販売店に置いてあります。
呉服屋さんでよく見る、この様な状態(反物)から着物に仕立てて行きます。

紋の数が、染め抜き日向一つ紋ですと『準礼装』。
一ツ紋の縫い紋、紋無しは『略礼装』にあたいします。
柄ゆきも仰々しく無いため、訪問着よりも落ちついていて、使用用途が広い着物なのです。
付け下げは結婚式や式典に加えて、七五三、入学式、パーティーなど幅広い使用用途にOKなので、あまり着物の数を持っていない人や、初心者などにおすすめです。
訪問着と同格か、より軽い感じで使用できるので、ちょっとしたお出かけなどにも使え、とても使用しやすい着物です。
色留袖の特徴
色留袖の模様は、裾(すそ)だけに文様が描かれていている黒以外の色の着物です。
下の写真のように仮絵羽(柄が見やすいように着物の形に仮縫いしてある物)の状態で売られている着物になります。

黒留袖の「黒」でない色の留袖と言えば、分かりやすいでしょうか。
紋の数は五つ紋を付けると、黒留袖と同じ「第一礼装」となり格が一番高くなります。
三つ紋、一つ紋でも訪問着より格が高くなります。
五つ紋は親族の結婚式に着ていけます。
三つ紋、一つ紋は、親族以外の知人の結婚式や、正式な式典におすすめな着物になります。

分かりやすいように、「訪問着」「付け下げ」「色留袖」の違いを格の高い順に表にしてみました。
|
色留袖 |
訪問着 |
付け下げ
|
親族の結婚式 |
○ |
△ |
△ |
友人の結婚式 |
× |
○ |
○ |
ホテルパーティー |
○ |
○ |
○ |
通過儀礼(母親) |
× |
○ |
○ |
お茶会 |
△ |
○ |
○ |
御食事 |
× |
△(紬○) |
△ |
△はその時々によって違うので、わからない場合は主催者にお伺いすると良いですね。
地域性や、着ていくシチュエーションによっても違いますが、大まかな基準として参考にしてみて下さい。
けれど、その
「シチュエーションの違いがわからない!」
という人の為に、そもそもの訪問着ができた過程に添って歴史を見ていくと、自分なりの基準が見えてきます。
訪問着とはどの様な着物?

結婚式や、パーティー、子供のお祝いごと、など人生のうちで華やかな場面が訪れた時
訪問着を着て行きたくなりますよね。
ですが、そもそも「訪問着はどの様な着物なのか?」を知らなければ、どの様なシチュエーションで着ても良いかも分かりませんよね。
着物に限らず、どんな事も「なに?」を解決するためには、「そもそも」まで深掘りすると、何らかの解決策が見えてくるものです。
そこで、今回は訪問着の「そもそも」を紹介したいと思います。
どの様な理由で訪問着という種類ができたのかや、実際に訪問着を着ていく時の「紋」はどうすれば良いなどを知ることにより、自分のコーディネートに自信を持って着物を楽しめるようになります。
・訪問着の歴史
・訪問着の定義
訪問着の歴史
「訪問着」という着物の種類が出来たのは大正時代になってからの事。
着物の長い歴史から見ると意外に最近できた着物の種類になりますね。
明治維新により異国との交流が盛んになり、異国文化である「洋服」が日本にも広がり始めた頃でした。
初めは皇室や政府の正装が「和服から洋服」になり、軍人や駅員、郵便局員など公的機関の制服も、次々に洋服になって行きました。
明治十一年(1878年)には
「束帯などの和装は祭服とし、洋装を正装とする」
という法律までできました。
それを受けて、先に洋服を制服としていた職業の人々の姿は、やがて一般庶民の憧れとなっていきます。
それまでの衣服である「和服」の中に「洋服」が加わった、和洋折衷の衣服文化の始まりですね。

(明治53年(1920年)の平安女学院のセーラー服)
ですが、この先に一般庶民まで洋服が浸透しだす事に、危機感を感じた着物業界では、何とか着物離れを食い止めるために必死でした。
その対策として、呉服屋などが「訪問着」という格を付けた着物の種類を作り、販促にのり出しました。
洋服の、”準礼装”や”略礼装”という格文化が、洋服文化と共に日本にも浸透し、それまで正装か普段着しか無い和服にも、”準礼装”、”略礼装”という立ち位置の「訪問着」を作ったのが始まりです。
消費者である一般庶民は、準礼装や、略礼装のドレスコーデが必要な場面では「訪問着」を着なければならないという認識になり、結婚式や式典の為だけにわざわざ「訪問着」を購入しなければ、ならなくなりました。
しかし現代は「わざわざ買わなければならない」という意識が余計に着物離れを進めている事に気いた呉服業界は、もう必死ですよね。
今までは
「結婚式や、パーティーなど格式があるときしか着れない」
という定義付けの販促していた訪問着を、最近は紋の数を減らして使用用途を広げる事によって
「訪問着はいつ着てもよい」
に定義を変えつつあります。
そのため現代の訪問着の「紋」や「定義」についても色々な考え方があります。
訪問着の定義

紋の数は、
- 染め抜き日向一つ紋で『準礼装』
- 紋なしでも『略礼装』
にあたいします。
最近の訪問着は使用用途を幅広くするために、紋なしで仕立てる人が多く見られます。
その為、よほどの格式のある席でない限り、紋を付けずに訪問着を着ていてもそれほど問題は無いと言われています。
ですが、着ていく先の状況や地域性などで、紋を必要とする場合と、しない場合も変わってきますので
「紋の有り無し、どちらの着物を着て良いのか?」
わからない場合はその場に出席される人や主催の方に聞くのが良いですね。
近年までの訪問着は、改まった席でのお召し物と言う「定義」でしたが、このような時代背景から、「誰が」「いつ」「何の為に」を見ていくと、そのような「定義」自体が、実に無意味で意図的で流動的なものだとわかります。
時代の流れとともに、人久が認識している「決まり」や「常識」等も変わりゆき、新たな「定義」が生まれていくのでしょうね。
長くなりましたが最後に、訪問着をより綺麗に見せる為のちょっとした裏技をお伝えします。
訪問着をより綺麗に見せる裏技
以前、訪問着には欠かせない京友禅の作家の先生「田畑喜八」先生とお話をさせて頂いた時に教えてもらった事です。
四季折々の自然をあしらった文様や、伝統的な柄が胸、肩、袖、裾などに繋がるように描かれている訪問着。
前から見た訪問着は、右袖にはあまり文様が描かれていなくて、左側の胸から肩、袖にかけて文様が繋がって描かれて居ることが多いです。
反対に後ろから見た訪問着は、右袖に文様が描かれていて、左袖には描かれていない事が多いです。
先生に写真の撮影をお願いした時に、その訪問着独特の文様の描かれ方を意識して
「左の袖を伸ばして袖口を持ち、文様が見えるようにポージングをすると良いよ」
と教えていただきました。
そうすることで、自分の訪問着に描かれている左袖部分の柄がしっかり見えて、着物全体の柄行きも分かり、より綺麗に見せる事ができるのですね。

訪問着の柄を染める京友禅作家の先生だからこその視点で、伺った時
「なるほど!」
と思いました。
訪問着で写真を取る時や、ちょっとした立ち姿の際は、ぜひこのポージングを意識して見てくださいね。
以上が、着物の訪問着とはいつ着るもの?付け下げや色留袖との違いの紹介でした。
着ているだけで自分も周りも晴れやかな気持ちにしてくれる訪問着。
着物だから何となく決まり事に囚われがちですが、最近はアンティーク着物や、ママ着物、現代着物と、着物の種類や、好みも人それぞれ。
あまり堅苦しく考えず、おめでたい席だけでなく、ちょっとしたお食事会などにも着て行きたいですね。