博多織と言ったら献上帯が有名ですが、献上以外にも間道(かんどう)や佐賀錦(さがにしき)などの織物も、博多で織られています。
西陣織などの分業制とは違い、全ての工程をまとめて一箇所で行うため、
どのように博多織ができあがるのかが、一箇所で全て見学できる♡
ので、工房見学にはもってこいの織物です。
下絵だけを書く工房があったり、糸通しだけを行う工房があったり、リレー方式で一つの織物を仕上げていくイメージです。
今回の工房見学は献上帯のように伝統的なものから、現代的な色や柄を取り入れた帯まで揃う、はかた匠工芸さんにお世話になりました。
その洗練された現代的な織物に魅了されて、米倉涼子さんや吉田羊さん、伊調馨(かおり)さんなど多くの著名人もはかた匠工芸さんの帯を着用しています。
どの帯も個性的で色も柄もはっきりしているのに、合わせる着物を選ばない使い回しが効きそうな現代にマッチした万能帯。
博多織といえば献上帯をイメージしていると、全く違うニアンスで匠工芸さんのセンスの良さを感じるものばかり。
こんな素敵な博多織を一度は着てみたい!と思うと同時に、どんな所でどのように作られているの?も着物好きはたまらなく興味をそそられます。
他にもどんな帯があるの?どんな人が作ってるの?なども気になるところ。
そこで今回は、この記事を読めば博多織がどのような工程で作られ、最終的にどのような帯ができあがるのか?実際に見学してきた内容を基にわかりやすく紹介したいと思います。
ここでしか見られない、できあがったばかりの帯の数々も紹介しますので、博多まで遠くて行けな~いという場合も必見です。
目次
紋意匠図から始まる博多織
工房にうかがってまず初めに見学させてもらったのが、紋意匠図の設計部屋です。
匠工芸さんでは、
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紋紙(もんがみ)穴あけ
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糸繰り(いとくり)
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整経(せいけい)
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仕掛け
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製織(せいしょく)
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仕上げ(検品)
までの工程が見学でき、設計は最初の工程で、できあがった図案を組織織りできるように設計図に変更する作業です。
匠工芸さんでは、博多織意匠部門の伝統工芸士であるこの道40年以上の栫井修さんをはじめとする意匠さんが行います。
栫井さんは、笑顔から優しさが伝わってくるシャイなお父さん、という感じでした。
栫井さんがシャイだからかどうかはわかりませんがW、隣に居た若い女性の意匠さんが作業の手を止めて、PC画面を見ながらどのような作業をしているのか詳しく説明をしてくださいます。
この作業を生で見るのが初めてだった私の止まらない質問にも、一つ一つ画面で実践しながら教えてくれました。
少しでも解りやすく説明してあげたい!という気持ちが伝わってきて、聞いてる私も真剣です。
まずは図案をPCにとりこみ、織機で織れるように専用ソフトで下の画像のように、緯糸(よこいと)・経糸(たていと)の数や色を細かく設計していきます。
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この作業の精密さが帯の模様の細かさや美しさを左右するので、とても大切な作業なんですね。
できあがった意匠図を基に織機に設置する紋紙を作るために、下の画像の機械(ピアノマシーン)で紋紙に穴を開けていきます。
この機械で意匠図の色柄別に、一段ずつ紋紙に穴を開けてからジャガードに合わせた柄データを作成します。
まるで美術品!華麗なる緯糸達
帯を織るために使う糸は、糸問屋から仕入れてから好みの色に染めるために染色屋さんに依頼します。
下の画像は染色屋で染めてもらったカセ状態の糸達です。
カセの状態の経糸は整経する前の準備のため、下の画像の機械で「枠」という道具に糸を巻き付ける「糸繰り」という作業をします。
染め上がった糸は、絡んだりよれがあり不揃いなので、それを除去や修正をして均一化しながら枠に巻きつけます。
糸繰りで糸を巻きつけた枠は取り出しやすいように、きれいに陳列されます。
壁一面に並べられた色とりどりの糸枠達が後に帯になると考えると、想像力が膨らんでワクワクが止まりませんでした。
取り出す糸を間違えないように、全ての糸枠の裏に糸の色名と番号が振ってあります。
作業の効率化を図るための整理整頓も気を配り徹底してる部分を見ると、商品のこだわりにも信用が増しますね。
本来なら、糸繰りの後に下の様な整経の作業がありますが、当日はお休みでした。
糸繰りでできた糸枠から、指先の感覚や目で確かめながら巻きつける整経作業は、まさに職人技です。
今までは経糸の準備でしたが、緯糸の準備も色の数だけ下の用意が必要になります
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②管巻き(緯合わせでまとめた緯糸を、杼(ひ)にセットする管(くだ)に巻いていく作業。
杼(ひ)にセットされる管(くだ)に巻かれた緯糸達。
右手に持っている杼を経糸の間に通して帯を織っていきます。
実際に帯を織り始めるまでに、糸の準備だけでもこれだけ多くの工程があるのにビックリです。
フォーマル博多帯から半幅帯まで圧巻の織機
整経が終わったら、織機で帯を織るために機仕掛けをします。
若い女性の職人さんも、自分が担当する織機の仕掛けのために、こんなに高い位置まで登って作業をします。
沢山の仕掛けがあり何がどうなってるのかわかりにくいですが、見えている部分に全てに糸が通っています。
下の画像のジャガード機は経糸を上下させる機械ですが、この機械がなかった時代は織機の上に職人が登り手作業で経糸を上下させて緯糸を通して織っていました。
ジャガード機に経糸を通したり筬通しをしたりと、経糸7~8000本を一本一本丁寧に仕掛ける作業は、一番手間のかかる根気のいる作業です。
沢山の仕掛けの苦労を実際に見たり聞いたりして理解すると、普段は「かわいい」とか「かっこいい」とか好みだけで着ている帯も、違った角度から愛着が持てるようになりますね。
仕掛けが終わったら、やっと製織作業に入れます。
匠工芸さんでは現在、12機の機械織機と6機の手織り機が稼働しています。
■まずは機械織機の見学です。
機械織りでも、ベテランの職人さんが付きっきりでほつれ等の糸のメンテナンスをしながら織っています。
デザイン毎に、担当の職人さんの厳しいチェックが入ります。
動いていない織機があると、職人さんが飛んできてワザワザ動かしてくれます!皆さん優しいです。
■続いて手織り機の見学です。
裏面を上にして織るときは、下に鏡を置き表面を確認しながら織っていました。
私の勝手なイメージで職人さんは年配の方を想像していましたが、匠工芸さんはとにかく若い伝統工芸士さんが多くてびっくりです。
右足のペダルを踏んで経糸を上下させて帯を織っていきます。
博多織で唯一の手織機「バッタン手越」を扱えるたった一人の織匠の技
はかた匠工芸さんの一番の見所は、博多織では唯一ここにしか無い手織機「バッタン手越」です。
手織機「バッタン手越」とは、別名「飛び杼」とも言われる、下の緯糸の杼を高速で飛ばして織っていく機械です。
このバッタン手越は、博多織では匠工芸さんの織匠「一木孝厚さん」ただ一人しか織れない強者だそうです。
まずは、織るために一木さんが機械に座るのですが、他の機械とは構造が違うのでその都度またがるだけでも大変そうです。
そして、いよいよバッタン機の始動ですが、高速すぎて何がおきているのかワケワカメ!
この速度とリズム感をお伝えできないのが残念!
杼を飛ばすために、右手で上から垂れている紐を引っ張るのですがとにかく早い!
紐を引っ張るタイミングと速度と加減が職人技で、誰もが扱える機械では無いそうです。
右手の位置が上下しているのがわかりますが、とにかく高速でガッシャンガッシャン早いです!
右手で紐を引っ張り杼を飛ばし、左手で打ち込みをします。
博多帯の特徴である、しなやかなのに腰のある帯にするためには、太くて丈夫な緯糸を力強く打ち込む必要があります。
だから手織りで作っいた時代の博多織は、力のある男性しかできない織だったのですね。
足も左右同時に動かします。
足もとの木を踏むことで機械に指示が行き、経糸を上下させる仕組みです。
何しろ両手両足全てが同時に動いていることに、どこを見てよいのかわからなく目が回りそうですが、この機械を動かしている本人は、腰に負担がくるので腰痛がひどくなるそうです。
一木さんは、「だから織るたびに、だんだん身長が削られるから次に会うときは背が小さくなってるよ!」と冗談で笑い飛ばしてました。
この動きを実際に見ると、一木さん以外にもう織れる人が残って居ないというのも納得すると共に、何とか伝承して欲しい気持ちになります。
先程紹介した、整経により整えられた経糸も機械にきれいにセットされています。
この経糸の配列を見ていると、なんとなくどんな帯ができあがるのか想像できますね。
後ほど紹介する、匠工芸さん不動の人気作、一木さんが主に手掛ける唐草間道です。
以前、博多織を紹介した記事の画像に出てきた帯です。
こうして、馴染みの帯が実際に織られている現場を見ることで、職人さんがどんな思いでどんな手間をかけてくれているのかがよくわかります。
そしてなりより、職人さんの人柄そのものが帯の価値となり、より一層大切に思う気持ちが増しますね。
熟練の目利き検品作業
そして最後の作業、検品の見学です。
ここでは、織り上がった帯の汚れやキズ、尺(長さ)、目方(重さ)など厳しいチェックをします。
何か問題があった部分はその場で修正作業をします。
厳しいチェックができる目利きと、修正ができる熟練の技の両方ができる職人さんしかできない作業でした。
この作業もやはり、お若い方がやられていたのにビックリです。
この検品を無事にクリアすることで、初めて帯として認められ証紙が貼られます。
お部屋にはまだまだ沢山の検品待ちの帯や着物がありました。
この子達が、後にどなたかの大切な一枚になることを願って、一品一品丁寧に思いを込めて扱われていましたよ。
できあがりホヤホヤの絶品博多帯
はかた匠工芸さんの帯の特徴は、伝統的な意匠を残しつつも施されているデザインが現代的なこと。
コンクリートの建物が多く立ち並ぶ今の時代にピッタリとマッチするうえ、色使いもどんな着物にも調和できるように設定されているので着回しが効く使いやすさがあります。
どちらかというと、「かわいい」より「かっこいい」感じのテイストが、粋に着こなしたい着物通の方に人気の帯です。
今回の工房見学でも織られていた新作の帯も含め、気になる最新の帯たちを一気に紹介したいと思います。
まずは、先程紹介した織匠一木さんが手掛けた帯です。
見学中も実際に織っているところを見せてくれました。
他にも下のような、唐草間道や弥右衛門間道も一木さんが手掛けます。
更に、匠工芸さんが誇る織匠「酒井豊さん」が手掛ける佐賀錦も、絶妙な色使いに心奪われる優美なデザインがセンスの良さを感じます。
現代のユーザーに人気な帯が、オールシーズン使えてしかもリバーシブル両面の帯です。
これらの帯全てが、オールシーズン使えて両面がA面仕様で本当に着回しが効く万能帯です。
私も、持っている帯の殆どがオールシーズン両面仕様で、一度使いやすさを経験したらこの条件が帯選びの必須になっています。
他にも日高さと子さんの帯も、女性らしくしなやかなデザインが人気です。
着物の雑誌「きものsalon」や「美しいキモノ」にも紹介されている帯ばかりなので、一度は目にしたこともあるかもしれませんね。
紹介したい帯が多すぎでサラ~と画像を載せていますが、博多帯の意匠には一つ一つ意味を持つデザインが多いのが特徴です。
博多織の歴史から紐解くデザインの意味を知ると、帯の着回し方や見せ方がわかるようになりコーディネートの幅も広がるのでおすすめです。
詳しくは下の記事で紹介しているので参考にしてみてください。
はかた匠工芸が誇る酒井豊先生
今回、工房を案内してくれたのが下の画像の酒井豊先生です。
酒井豊先生は、織匠一筋60年の経歴を持つ西日本で唯一、世界に通じる検定技能士の資格を持つ織匠です。
検定技能士とは、技能検定に合格した人に与えられる国家資格で、伝統工芸士などを育てる立場でもあります。
博多織の世界ではかなり有名な方なので、先生の作品のファンの方も多くいらっしゃいます。
この記事の一番初めに紹介した、米倉涼子さん達有名人の帯も全て先生が作った帯です。
帯を織るだけではなく、バラバラの状態の機械をゼロから全部組み立てたり、博多織の組織をご自身で作ったりと酒井先生しかできない事が多いので先生を慕う伝統工芸士さんも沢山おられます。
他にも、博多織だけにとどまらずお隣の大島紬などとコラボの作品なども手掛けています。
当日私が着た白大島紬に献上柄が織り込まれた着物も、酒井先生が考案して作った着物です。
このように多方面での活動で日々忙しい先生ですが、とても気さくで惜しみなく織の魅力を伝えてくださりました。
とてもお元気でフットワークも軽いので、常にどこかの都市の展示会などで公演をしていますので、ぜひ一度先生のお話を聞いてみてください。
誰よりも経歴もあり、最先端の技と感性で帯や着物を作っている方だからこそ、どんな帯や着物がお洒落なのかが解り、かっこよいコーディネートの仕方なども教えてくれますよ。
はかた匠工芸とは
最後に、今回お世話になったはかた匠工芸さんの紹介をして終わりにしたいと思います。
昭和30年頃の博多織の全盛期には約160社ほどあった織元さんも、現在わずか12社ほど残っていないそうです。
その中でも、機械、手織り合わせて約20機ほどの織機が稼働している工房は、全国的に見てもとてもまれで貴重な織元さんです。
会社の玄関には可愛らしい手織りの博多織を着た雛人形がお出迎えしてくれました。
匠工芸さんは博多織の伝統工芸士の育成にも力を入れているため、在籍する伝統工芸士さんが8人も居ることも業界でも珍しい。
だから、お若い伝統工芸士さんが沢山いたのも納得です。新しい博多織の幅も広がりそうで、これからが益々楽しみです。
今回、工房見学をさせてもらって感じたことは、皆さん博多織の魅力を伝えたくてしょうがないというのを、ひしひしと感じたこと。
織の工程は素人では難しい内容なのを把握してくれてるので、わかりやすい言葉で実践しながら見せてくれました。
そして皆さんとても仲が良い!会社全体の明るい雰囲気から、この工房で作られる作品に皆さんのお人柄が込められているのを感じました。
どんな人が作ったの?かは、作品そのものに反映されるので何より大切にしたい帯選びの基準の一つです。
その点、匠工芸さんの帯は本当に博多織を大切に繋げていきたい方達が作っているので、手掛ける帯からもその思いが伝わってきます。
締め心地の良さや着たときの満足感は、後世にまで博多織を残すためにもより良い一枚を!との思いで作られたからでしょうね。
匠工芸さんは博多空港からすぐの場所に位置してアクセスもしやすいので、是非一度生のガッチャンガッチャンの活力と職人さん達の心を体験してみたくださいね。
事前に予約すれば、誰でも見学できるそうです。
はかた匠工芸さんホームページです→クリックで飛べます。
株式会社 はかた匠工芸
所在地 福岡県大野城市仲畑二丁目12番40号
下の地図を動かすと位置が確認できます。
(地図上のマーカーをクリックすると詳細あり)
以上が、博多織の工房見学!著名人に愛される「はかた匠工芸」帯の魅力の紹介でした。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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沢山の着物好きに伝わり、自分の着物スタイルを堂々と自信をもって楽しめる着物仲間が増えますように♡
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