2018年に777周年を迎えた博多織には様々な種類の証紙があり、現在使われている証紙は、平成23年6月に改定が行われてからの物です。
証紙とは簡単に言うと、その着物や帯の産地や価値を証明した紙のことで、博多織の証紙は「博多織工業組合」が発行しています。
しかし、市場には改定前のままの証紙も多く出回っているために、どの証紙がどのような内容なのかが分かりにくくなってしまいました。
そこで、現在の博多織の証紙と改定前の証紙の違いや、証紙の色の違いなど分かりやすく紹介したいと思います。
博多織の証紙の種類は何がある?
現在、博多織工業組合が定める基準に合格した博多織製品には、下記の7種類の証紙が貼ってあります。
金の証紙 |
絹50%以上使用の着物や帯に貼付 |
青の証紙 |
絹50%以下使用の着物や帯に貼付 |
金丸の証紙 |
絹50%以上使用の小物(印鑑ケースやネクタイなど)に貼付 |
丸青の証紙 |
絹50%以下使用の小物(印鑑ケースやネクタイなど)に貼付 |
着尺・袴地の証紙 |
着尺・袴地に貼付 |
伝統的工芸品の証紙 |
伝統的な技法によりつくられ、組合の厳しい検査に合格して経済産業大臣の指定を受けた伝統的工芸品に該当する製品に貼付 |
手織りの証紙 |
手織り製品に貼付 |
これらを見ていると、絹が使われている比率で、金の証紙なのか青の証紙なのかが変わっているのが分かりますね。
四角の証紙か丸の証紙かの違いは、丸の証紙は小物などに貼られる物みたいです。
博多織の小物には、下の画像のように印鑑ケースやネクタイなど和装だけでなく生活雑貨や洋服に使うものまでさまざまな種類があります。
他にも着尺・袴地に貼られる証紙、伝統的工芸品の規定をクリアした製品に貼られる証紙など、証紙を見れば、その製品がどのような織られ方をしているのかが分かるようになっていますね。
そして、一枚の製品でもこれらの基準を同時に満たしている製品には、下の画像のように何枚もの証紙が貼られます。
こちらの製品は、絹の比率が50%以上の手織りで織れれていて、経済産業大臣の指定を受けた伝統的な技法で作られた製品ということになります。
このように、見ただけでは分からない製品の詳しい製法を見分けるのにとても分かりやすい表記の仕方ですね。
ですが、一つ気になることに、
「絹50%以外の糸とはどんな糸が使われているのか?」
ということがあります。
その答えは改定前の博多織の証紙の規定に詳しく説明されていて、博多織に使われる糸は絹以外に下記のような糸が使われているようです。
- 絹紡糸・・・きれいな絹糸が取れない、くず繭や、切れてしまった糸を紡いで長くした絹糸のことです。
- 酢蚕糸・・・野蚕糸(やさんし)すなわち、自然の中で育った繭からできた糸のことですね。
博多織では家蚕糸が使われているようです。
- 増量加工糸・・・絹生地は重さで質を判断される場合もため、糸に特殊な加工をして重量を重くした加工糸。
- 天然繊維・・・麻・綿など
- 化・合繊等・・・化学繊維や、合繊維(化学繊維の一種)のこと。
今の証紙は、平成26年に改定されたもですが、以前の証紙は上記の糸別にもっと細かく証紙が分けられていました。
今の証紙以外の証紙が貼られている博多織を持っていたり見かけた場合は、何の証紙なのか迷ってしまいます。
そこで、次は改定前の証紙の種類を紹介したいと思います。
博多織の証紙の緑は何?
博多織の証紙で、今の証紙の色にはない、緑や紫の色の証紙を見たら
「これは何の証紙なの?」
と、疑問になりますよね。
これら
博多織の証紙は平成26年の6月に新しい証紙に改定されましたが、それより以前の証紙が貼られた製品も市場に残っているため、現在様々な証紙が混在している状態にあります。
自分の持っている製品や、市場で見られる製品が改定前の証紙だとしたら、
「それは何を表す証紙なの?」
「改定後の証紙との違いはなに?」
と疑問になりますね。
そこで、それらの疑問を解決するために、改定前の5種類の証紙を紹介します。
金の証紙 |
経糸(たていと)・緯糸(よこいと)ともに本絹(飾り糸も含む、絹紡糸、酢蚕糸、増量加工糸を除く絹糸)使用の製品に貼付。 |
緑の証紙 |
経糸が本絹、緯糸が本絹以外の絹糸使用の製品に貼付。 |
紫の証紙 |
経糸・緯糸共に本絹以外の絹糸使用の製品に貼付。 |
青の証紙 |
青は追加証紙。
絹以外の繊維で作られた製品に貼付。 天然繊維(麻・綿など)と、化・合繊等。 |
丸の証紙 |
小物商品(印鑑ケースやネクタイなど)に貼付 |
以上を見ていると、改定前の証紙は現在の証紙より、使われる糸に対して細かな区別がされているのが分かりますね。
そもそも、絹は生絹(正絹)と表示してあり、現在のように使用率では区別しておらず、「経糸」「緯糸」別に使用している糸の種類で区別しています。
緯糸(よこいと)とは、織物を織る糸のうち、緯方向に通っている糸のことです。
織物は、糸を経糸と緯糸にして織り上げます。糸の種類や組織の仕組みなどの違いから多種多様な織物があります。
少し分かりにくいので、簡単にまとめると、下のようになります。
- 金の証紙は・・・経糸緯糸全てが本絹(長繊維)で織られた製品
- 緑の証紙は・・・経糸は本絹、緯糸は絹紡糸等で織られた製品
- 紫の証紙は・・・経糸緯糸全てがが絹紡糸等で織られた製品
- 青の証紙は・・・綿やポリなどで織られた製品
絹紡糸も糸の質が違うだけで絹100%なので、改定前の証紙には、正絹なのか絹紡糸なのかが分かる様に、「金」「緑」「紫」の三段階に区別されていました。
そのため、一見して分からない絹糸の質が一目で分かるので、証紙を見ただけで製品を見分けることができとても参考になりました。
しかし、現在の証紙は、正絹も絹紡糸もすべて「絹」と称して金の証紙に一本化しました。
そして、この金の証紙は絹100%ではなく、絹50%以上の製品に貼付されているので、交織(絹と化繊を混ぜて織ったもの)の製品にも金の証紙が貼付されていることになります。
こうなると、改定前も改定後も存在する金の証紙はどのように見分ければ良いのでしょうか。
青の証紙も同じく内容が全く違うのに同じ証紙が使われています。
博多織工業組合は博多織の品質を守り、未来へ繋げていくことを目的として設立されているはずなのに、証紙を改定したことにより品質の良い物も悪い物も同一の製品として表示しているのです。
こうなってしまうと、私たち消費者はどのような解釈で証紙を見ればよいのか分からなくなってしまいますね。
そこで、最後に博多織の証紙の意味や価値についてお話したいと思います。
博多織の証紙の有り無しは意味があるの?
結論から言うと、
意味が無いと言い切ってしまうと語弊がありますが、証紙の有り無しだけで製品の質を見分けることはできないということです。
私たち消費者は、価格の違いや質の良し悪しが分からないため、証紙をそれらを判断する一つの目安として考えていますよね。
博多織の証紙についても同じで、平成26年に改定される前の証紙は製品の製法別に細かく区別されていたため、とても信頼できる価値のあるものでした。
しかし、現在の証紙は改定前と製法は全く違うのに、同じ「金」と「青」の証紙を使っています。
下の表は改定前と改定後の証紙の違いです。
改定前 | 改定後 | |
金の証紙 |
経糸(たていと)・緯糸(よこいと)ともに本絹(飾り糸も含む、絹紡糸、酢蚕糸、増量加工糸を除く絹糸)使用の製品に貼付。 | 絹50%以上使用の着物や帯に貼付 |
青の証紙 |
青は追加証紙。 絹以外の繊維で作られた製品に貼付。 天然繊維(麻・綿など)と、化・合繊等。 |
絹50%以下使用の着物や帯に貼付 |
緑の証紙 |
経糸が本絹、緯糸が本絹以外の絹糸使用の製品に貼付。 | なし |
紫の証紙 |
経糸・緯糸共に本絹以外の絹糸使用の製品に貼付。 | なし |
丸金の証紙 |
小物商品(印鑑ケースやネクタイなど)に貼付 | 絹50%以上使用の小物(印鑑ケースやネクタイなど)に貼付 |
丸青の証紙 |
なし | 絹50%以下使用の小物(印鑑ケースやネクタイなど)に貼付 |
着尺・袴地の証紙 |
着尺・袴地に貼付 | 改定前と同じ |
伝統的工芸品の証紙 |
伝統的な技法によりつくられ、組合の厳しい検査に合格して経済産業大臣の指定を受けた伝統的工芸品に該当する製品に貼付 | 改定前と同じ |
手織りの証紙 |
手織り製品に貼付 | 改定前と同じ |
こうなってしまうと、
それに、これはどこの産地でもいえることですが、証紙の貼付はもともと、その証紙を発行している産地の団体や組合に登録している人だけが得られる権利です。
検査規定内の博多織の技法でつくったけど、作った人が博多織工業組合に入っていなかったり、組合員の作った製品でも組合の検査を通してないものには証紙はつきません。
検査をするまでに、費用と手間が余計にかかってしまい、その分の価格が高くなるからです。
少しでも安く市場に出したい製品などは、組合員が織ったものでも、博多織工業組合の検査を通さないので証紙は付きません。
人それぞれ証紙に求める意味や価値が違えど、博多織の証紙の改定後は、証紙自体の質が落ちていることは否定できないですね。
買取などに出すときは、少しは意味があるものになりますが。
以上が博多織の証紙についての紹介でした。
証紙改定後からは自分自身で知識をつけて、品質を確認し妥当な金額なのかも見分けなければいけません。
自分が求める知識や情報が安易に手に入る時代ですが、何が本当の情報なのかを見極める力も必要になってくるので大変です。
しかし着物好きとしては、知識を深めるために様々な情報を探るのも幸せな時間となり、それにより人生が豊かになって行くこともまた、楽しみの一つですね。