昭和40年代に大流行した、卒業式や入学式に母親が着る黒羽織は、時代の移り変わりと共に最近はめっきり見なくなりましたね。
しかし、アンティーク着物が流行りの現代だけに、黒羽織を着ていくか悩んでいる人もいるのではないでしょうか?
そこで今回は、
「一つ紋入りや古着の黒羽織コーデは、卒業式や入学式に着ても大丈夫なのか?」
を紹介したいと思います。
古着の黒羽織でも卒業式や入学式に着ても大丈夫なの?
安価で利便性が良いものが溢れる現代、日本の古き良き文化や伝統の着物が見直されつつあり、黒羽織もそんな着物の一つです。
「絹という丈夫で高価な素材なので、大切に保管されて状態も良いのでまだまだ着れる」
「伝統技術から作る美しい意匠が逆に斬新」
「先祖代々受け継がれ大切な思い入れがある」
などの様々な理由で、若い人を中心に母親や祖母の着物を受け継いだり、古着屋でアンティーク黒羽織を購入する人が増えてきてますね。
ですが、いくら状態が良く思いれのある黒羽織だからと言っても、紋が付いていたり(今の時代は羽織に紋を付ける人はあまり居ません)柄の描かれ方や、丈の長さから時代を感じる事は否めません。
見るからに、「昭和」を感じてしまうアンティークや古着の黒羽織なので、
「今の時代の卒業式や入学式に着ても大丈夫なの?」
と心配になってしまいますが、大丈夫か、大丈夫でないかの観点から言うと、答えは
「卒業式や入学式に着ても大丈夫」
です!
羽織自体に格が無いことや、そもそも卒業式や入学式に
「この着物を着てはいけない!」
などと言う決まりやルールは今の時代には無いからです。
着物と言うだけで、洋服より堅苦しい決まり事や、ルールがあるかのように捉えがちですが、武家社会の時代のように着物が身分の階級を表す役割があるわけでも無く、
「奢侈禁止令(しゃしきんしれい)」
により、贅沢な着物を着ることが禁止されている時代でもありません。
そのため自由に自分の着たい着物が着れない時代がありました。
その場のTPOに合わせて一定の決まり事やルールの元、自分の好きな着物を自由に着れる時代です。
それらを踏まえ考えると、今の時代の着物は、身体を守るための衣服であり、ファッションの一部でもあるという事です。
黒羽織は洋服で言うところのカーディガン様な扱いになりますので
「下に着ている衣類だけでは少し寒いし、おしゃれとして着たい」
という時などに羽織る物としての位置づけで大丈夫です。
(お茶席では羽織は着れません)
黒羽織には一つ紋が付いている事が多いですが、卒業式や入学式の式典なら、紋が入っていても大丈夫です。
(普段着として羽織を着る際に紋が入っていると、格が上がり過ぎておかしいです)
洋服でも和服でも、自分が良いと思うものを自由に着る。
そして良いと思う基準も人それぞれの個性として尊重される時代です。
卒業式や入学式に、今どきの長羽織を着ていても、年代物の黒羽織を着ていても、個人の自由です。
しかし、どの様な場面でもTPOに合わせて一定の決まり事やルールがあるのは洋服も和服も一緒です。
その決まりやルールを踏まえて、まずは黒羽織とはどの様な着物で、一つ紋にはどのような役割があるかなどから見ていきましょう。
黒羽織とはどのような着物?一つ紋の役割は?
日本の衣服の長い歴史を見てみると、時代の移り変わりに合わせ、着物にも流行りの形や、柄があることが分かります。
黒羽織も同じく時代により流行りがありました。
一般女性にも羽織が浸透してきた(羽織は元々男性だけが着るものでした)明治から大正にかけては、長羽織(膝より下の丈)が一般的でした。
第二次世界大戦後の昭和30年~50年頃までは「一つ紋付きの絵羽模様」の黒羽織が卒業式や入学式の定番でした。
現代のように準・略礼装にあたる「訪問着」という種類の着物が一般庶民に浸透し始めた時代です。
ですが、一般庶民がわざわざ一回きりの式典のために「訪問着」を仕立てるのも悩める時代で、どうにかして式典に合う「格」にできないかと考えました。
その対処方法として”普段着”である「小紋」に一つ紋の黒羽織をはおる事で、「格」を上げ”略礼装”の位置づけとして、卒業式や入学式に出席できるようにしたのです。
この時代は膝上の短い丈の黒羽織が流行りでしたね。
平成に入り時代は繰り返えされ、現代は又、長羽織が流行っていますが、昔の流行りを知らない私達にとっては斬新で新しく感じますね。
先日私も、着物仲間と二人揃って長羽織を着ていたら、80代ぐらいの女性に
「今は又、長い丈の羽織が流行っているのね」
と声をかけられました。
今の時代では新鮮な長羽織でも、流行っていた時代を知っている女性にしたら、懐かしい着物だったのでしょうね。
アンティークや、古着が新たなジャンルとして確立されている現代では、丈の短い絵羽模様の黒羽織は、その時代を知らない私達の世代にとって、斬新なお洒落として魅力を感じる人も出てきました。
古着の黒羽織や、「ママふり」(母親が着ていた振り袖)という言葉が定着するほど、最近はアンティーク着物が流行っています。
しかし、どの様な物を着るのでも、その場のTPOに合わせて一定の決まり事やルールがあるのは洋服も和服も一緒ですので、次はその点を見ていきましょう。
黒羽織を着る時の決まりやルールは?
私は今まで自分の子供の卒業式には12回、入学式には15回出席していますが、卒業式、入学式共に、一定の決まりやルールの元、当日着ていく服を選んでいました。
一定の決まり事やルールがあるからこそ、自由に着ていくものを選んでも、その場の品格や雰囲気が守られて行けるものだと思います。
今回の様な卒業式や入学式という式典の、決まり事やルールとしては、洋服でも着物でも
「礼装もしくは準礼装にあたる服装」
という一般的な認識があります。
しかし、今回の黒羽織自体に「礼装」や、「準礼装」などの格は無く、洋服でいうカーディガンの扱いになるため、厳格な決まり事やルールなどには当てはまりません。
下に着る着物に礼装や準礼装の格があり、羽織物はあくまで
「羽織るだけの物」(紋が入ってたら少し格が上がる)
程度の認識で大丈夫です。
私が今まで卒業式や入学式に出席してきて感じたのは、卒業式はお別れ会的な要素も入るため
「ブラックフォーマル」
の装いの人が多かったので、黒羽織を着ていても違和感は感じませんでした。
しかし、入学式の場合は、新たなる門出のお祝いや、春の温かい季節のイメージがあるため、明るい色目の装いの方が多いので、黒羽織では少し重たい感じがして、あまりおすすめはしません。
因みに私は、入学式では帯付き(羽織ものをはおらない帯が丸見えの状態)か、明るい色のコートか羽織を着ていきます。
どちらも、地域性や気候などの違いから感覚はそれぞれ違いますので、心配の場合は先生や、先輩ママさんなどにお伺いすると良いと思います。
もしも、黒羽織を着て出席する場合は、着方に関して注意する点が2つあります。
黒羽織の着方での注意点
黒羽織を使用する際のルールやマナーなどで当てはまるものはありませんが、着方での注意点が二つだけあります。
①羽織を羽織るときの衿の形
コートなどと違い、羽織の衿は後ろの部分だけを外側に山折りをして、下に着ている着物の衿元に添わせるように着るという事です。
「羽織は肩で着る」と昔から言われていて、肩に羽織をかけて袖を通していく着方をします。
着る際に後ろ衿を外側に折ることにより裾まで続く前襟が左右に開く観音開きの様な形になり、羽織紐が綺麗に付けれるからです。(男性はいくつかの着方があります)
そのため、羽織の後ろ側の衿をよく見ると、真ん中部分に、折り目がつけやすいように「千鳥くげ」という縫い目が付けられています。
千鳥くげは本来見せるものではないので 折らずに着ると千鳥くげが丸見えになってしまいます。
もしも男性の着方の一つの様に、衿を折って着ない着方をしたいならば 千鳥くげは取って着付けると良いですね。(着方を知らないと誤解されかねませんが)
②羽織紐の位置
羽織紐は、帯の上線から帯締めの間のちょうど中心辺りに来るように調節すると、綺麗に見えて良いとされています。
せっかく黒羽織を着るのでしたら、”おしゃれ感”や、きれいに着付けができている”こなれ感”
を演出できる着付けをしたいものですね。
以上の事を注意していれば、卒業式や入学式での黒羽織は紋が入っていても、どの様な中古品でも大丈夫です。
今どきの呉服店や、販売会も兼ねた着付け教室などでは、販促のため
「黒羽織は時代遅れで今の時代は誰も着ていないわよ」
と、言われる場合もあります。
しかし、時代遅れだと着てはいけないルールや決まりも無ければ、誰も着てなければ着てはいけない訳でもありません。
せっかく母や、祖母から受け継いだ大事な黒羽織だったり、柄や文様が自分の好みであったりした場合、その思いの方が大切なのではないかと感じます。
人それぞれ感じ方考え方はそれぞれですが、一定のルールや決まりの元、好きな着物を自由に選択して着れる時代です。
着物だからと、あまり堅苦しく考えず、基本のルールや決まりは洋服と同じです。
とは言いつつも、私は現代物の着物の意匠や織りの技術からできる地紋のデザイン等に、魅力を感じるので黒羽織は絵羽模様ではなくて、現代物の黒の長羽織を卒業式に着ていきました。
人の好みは人それぞれなので、昭和の古き良き時代のアンティーク黒羽織(絵羽模様)、現代物の長羽織、どちらでも自分が着たいと思う羽織を着て、卒業式のコーディネイトを楽しんで下さいね。