今回の展示会に行ってきました!シリーズは、天皇しかお召しになることができない絶対禁色(ぜったいきんじき)の「黄櫨染(こうろぜん)」をもとに開発された「夢こうろ染」の展示会です。
日本には古来から高貴な人にしか着用が認められない「禁色」と言われる、特定の色や地質などが施された衣服がありました。
中でも下の画像の黄櫨染が、天皇しかお召しになれない最も位の高い「絶対禁色」です。
日本の最高機密である黄櫨染の染め技法の調査・研究を唯一許されたのが、染色作家の奥田祐斎さんです。
今回は、そんな黄櫨染の謎を解き明かして現代に再現した奥田裕斎さんの「夢こうろ染」の展示会。
今回展示されていた様々な作品をもとに、夢こうろ染の魅力や奥田祐斎さんの世界感を紹介したいと思います。
今回の展示会の流れ
今回の夢こうろ染の展示会は、地域で一番格の高いホテルのワンフロアーを貸し切って行われました。
事前予約の際に、
「展示会が始まる前に、夢こうろ染の作家奥田裕斎さんの講演会があるので、良かったらそちらから参加してください」
と教えていただいたので講演会から参加しました。
こうして作家さんから直々にその作品の歴史や成り立ちを聞けることは、着物好きにしたらとても幸せな時間。
触った感触や見た目だけではではわからない、その着物の何が貴重なのか、どこに価値があるのかが分かったりするからです。
そうして、作家さんにしかわからない深い魅力を知ることで、自分の着物のコーディネートの幅も広がるのでますます着物が好きになりますね。
作家さんは職人肌の人が多く、中々こうした販売会に顔を出してくれることは少ないです。
特に奥田裕斎さんは着物や帯だけでなく、染の実績が認められ世界各国で活躍されていて、今回の展示会も3日前にパリから帰国したばかりでした。
そんなお忙しい中、こうして展示会に足を運んでくださることはとても有難いですね。
そんな貴重な時間を存分に楽しめるようにと考えられた、今回の夢こうろ染展示会は、下のような流れで行われました。
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②コートや草履を預かってもらう
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③講演会が始まるまで受付前の待合いでお茶をいただく
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④夢こうろ染の作家「奥田裕斎さん」による講演会
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⑤昼食or展示会の観覧
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⑥気になる着物や帯の試着
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⑦購入品の伝票作成・決済・自由解散
今回の展示会は最初に奥田裕斎さんによる講演会があるため、下のように受付が終わってある程度参加者が揃うまで、待合所で待機でした。
その間はお茶を飲みながら、担当の方やご一緒してくれた着物仲間との世間話や、今日のコーディネートのあれこれコミュニケーションの時間です。
同じ趣味を持つ仲間と過ごすこうした時間も、これまた楽しくて仕方ありません。
そして今日行われる展示会の夢こうろ染についての話題が出てきた丁度良いタイミングで、いよいよ展示会の始まりです。
まずは、講演会の会場に待合所からぞろぞろと移動です。
途中の通路に並べられた先生の作品をゆっくり見たいのですが、後に続く参加者の流れに立ち止まることができずに一旦スルーします。
皆さん、早く夢こうろ染の講演を聞きたくてしょうがないといった感じの足並みですね。
会場に入ると、なんとも幻想的にライトアップされ配置の方法にもこだわった、展示会というよりまるでどこかの美術館に来たような空間が広がります。
後で聞いたのですが、やはり先生のゆかりの場所であるルーヴル美術館をイメージして空間を演出したそうです。
下の画像ではわかりにくいですが、真っ暗の会場に並ぶ作品に後ろからライトを当てて展示してありました。
今回の展示会に行くまでは、夢こうろ染の成り立ちや特徴など全く知らなかった私は、なぜこのように後ろから展示物を照らしているのかの、本当の意味を分かっていませんでした。
この後の奥田裕斎さんのお話から、この展示の仕方へのこだわりや計算された演出の意味を知ることになります。
しかし、講演会が終わった後はライトアップが消されていたので、そのこだわりや演出を改めて見る事ができませんでした。
私個人の感想としては、このライトアップの演出が今回の中でもかなりの見どころだったと感じるので、もう一度見たかったという思いが残りました。
しかし思いを残すことで、さらなる探求心をそそる演出だったかもしれませんね。
そして、お楽しみの講演会はスクリーンに映し出される動画で、黄櫨染の説明や、奥田裕斎さんが今まで取り組まれてきた活動の紹介から始まります。
奥田裕斎さんがどのように黄櫨染に出会いどのように研究を進めたのかや、黄櫨染の特徴などを分かりやすくまとめてある動画でした。
そして動画で一通り理解したところで、いよいよ奥田裕斎さんご本人の登場です。
天皇とか禁色とか、厳格な雰囲気がただよう黄櫨染の動画の後だけに、少し緊張が走る会場。
奥田裕斎さんは一見強面なのでさらに緊張が続くと思いきや、物腰穏やかでときどき冗談をまじえながらお話しくださりました。
そのギャップが余計に会場の雰囲気を和ませて、先生の問いかけにも笑いを交えながら答える参加者との面白い時間となりました。
日本の染色家の代表として要請を受け、世界中で様々な活躍をしている奥田裕斎さんなので、こうした講演会は慣れたものなのでしょうね。
そんな楽しい講演会は、動画も合わせると一時間ぐらいあったでしょうか。
奥田裕斎さんが研究している写真や、実際にいつも使っている道具を見せてくれながら説明してくださるので、とても理解しやすかったです。
講演会が終わると、別部屋に用意してある展示会場に移るのですが、参加者が多かったため昼食組と観覧組に分かれます。
昼食の会場は下の画像のように同じフロアーに用意されているので移動時間にロスがないような流れになってました。
昼食は普通なら2000円ほどするホテルのお弁当を、1000円で頂けるのでそれだけでもお得ですね。
しかも、お品書きには夢こうろ染の紹介も書いてあるので、お弁当を食べながら改めて知ることもできます。
そして美味しいお弁当でお腹も満たされたら、やっと展示会場に移動して夢こうろ染めの着物や帯にご対面です。
会場に入ると、昼食をとらずに先に展覧会を見てた人でいっぱいでした。
壁一面に奥田裕斎さんの手掛けた夢こうろ染めの帯や着物やストールなど色とりどりの染め物が並んでいます。
そして、夢こうろ染の特徴を分かりやすく体験してもらうために、会場のあちこちで着物や帯にライトを当てています。
ライトアップされた夢こうろ染はなんとも幻想的で美しいのですが、
「ライトを当てるとどうなるの?」
「夢こうろ染の特徴とはなに?」
など気になりますね。
その疑問を解決するために、まずは夢こうろ染の元となった黄櫨染の紹介からしていきたいと思います。
天皇しかお召しになれない黄櫨染とは?
夢こうろ染とは、染色作家である奥田裕斎さんが日本の絶対禁色である「黄櫨染」を元に、新たに色変化バリエーションを加えた染色技法のことです。
元となった黄櫨染とは、平安初期の嵯峨(さが)天皇(786~842年)以来、天皇だけがお召しになれる第一礼装の御袍(ごほう)の色と定められました。
現代までの1200年間守り続けられている染めで、普段はお目にかかることができませんが、即位の礼や四方拝などで天皇がお召しになります。
今上天皇が即位の礼でお召しになったのを、TVなどで見たことがある人も多いのではないでしょうか。
そんな黄櫨染は下記の材料を使い染められ、太陽に当たると真っ赤な色に移り変わる特殊な染になります。
- 櫨(はぜ)
- 蘇芳(すおう)
- 紫根(しこん)
何もない所では下のような品のある落ち着いた色をしています。
神聖で神秘的な太陽の色に変化するその様は「天皇の色」と言われています。
日本人は古来から太陽のことを「お天道さま」「お日さま」冬至の「ゆず湯」などと、信仰をしてきました。
日本の国旗も太陽のように真っ赤な色に染められています。
そして天照大神は太陽神で皇室の祖神です。
黄櫨染が天皇の色と言われ、第一礼装になった理由がここにあります。
長きにわたりもっとも厳格な禁色であり、側近以外の目に触れることができず、正確な染色法も一般には知られてなかった事から「幻の染」とも呼ばれていました。
そのような貴重な染の研究・調査を許されたのは、歴代にわずか10人ほどで、現代は奥田祐斎さんがその機会を得ることができました。
そんな、日本の染色作家の代表として様々な国でご活躍されている奥田裕斎さんが、どんな方なのか。
今回の講演会のお話の元に紹介したいと思います。
(ご本人に写真掲載許可済)
黄櫨染の研究・調査を唯一許された奥田祐斎さんとは?
1950年に三重県熊野市生まれた奥田祐斎さんが、染の研究をしていて黄櫨染を知ってからは、
「何とかしてこの染物の色をよみがえさせたい」
と感じたそうです。
奥田裕斎さんが33歳の時、京都の広隆寺に保管されていた代々の黄櫨染を、國學院大學の協力のもと研究する機会を与えられました。
下の画像がその時の様子ですが、奥田裕斎さんの顔に巻かれているタオルは息(湿気)から資料を守るためで、
「決して泥棒ではありません」
と、冗談交じりで説明くださりました。
他にも、平安時代の文献の延喜式(えんぎしき)を読み解き、調合の割合を調べ尽くした結果、光によって変化する黄櫨染の再現に成功したそうです。
調査を重ね、研究を進めていくうちに、他の染料でも光によって色が変わる染料を発見したのです。
その染料に、独自の技法を加えてあみだしたのが今回の展示会で拝見できる「夢こうろ染」です。
今ではその功績が認められ、日本を代表する染色作家として、下のように世界各国で活躍しています。
- 日仏友好150周年記念の一環として、経済産業省とJetro主催で開催された『感性 kansei-japan Desigh Exhibition』で夢こうろ染も推挙され出展。
- 2010年には、ルーヴル美術館やギメ美術館の学芸員、修復家ら17名が奥田祐斎を研修訪問。
- 2010年 嵯峨天皇の離宮として建立された大覚寺で、黄櫨染を天皇の色と定められたのが嵯峨天皇ということもあり、大覚寺あげての奉納式典が執り行われた。
- 2011年 青蓮院門跡
粟田御所とも呼ばれる青蓮院門跡の格調高いライトアップに奥田祐斎と象山氏のコラボレーション作品「不動明王」が輝いた。(青蓮院門跡は国宝青不動明王を祀っている) - 2014年 鹿島神宮
「タケミカヅチ」(タペストリー)
線描:漫画家・村上もとか 染色:奥田祐斎
村上天皇の流れを汲む村上もとか氏は代々鹿島神宮の神官の家系である。ご自身は漫画家となり、話題を呼んだTBSドラマ「JIN-仁-」の原作者である。
他にも様々な企業とのコラボ作品を展開しています。
着物の展示会では、エルメスの最高位の糸の話がよく出てくるのですが、奥田裕斎さんはそんなエルメスの6代目現社長にも直々、染の説明をしたことがあるそうです。
最近では、エスメスのもと鞄(かばん)職人が立ち上げた方とのコラボもしています。
右に映っているのが奥田裕斎さんで、ご自身が作られた夢こうろ染のお着物を個性的にコーディネートした着姿は、まさにアーティストですね。
そんな日本独自の染め黄櫨染から誕生した、奥田祐斎さんの作る夢こうろ染とはどんな染めなのか紹介したいと思います。
奥田祐斎さんの作る夢こうろ染とは?
講演会のお話ので、日本の染について色々お話してくれた中で最も記憶に残っているのがお水のお話です。
古くから日本に残るの染色には、大島紬や藍染など自然の恵みから作られるものがあります。
ですが、それらの元を正すと中国の技法を日本独特のアレンジを加えて考案された染色方法がほとんどです。
しかし、日本の最高機密とされた黄櫨染は完全に日本オリジナルの技法であり文化でした。
そんな文化を研究する時に奥田裕斎さんが着目したのが、各国の食文化だそうです。
その国の食文化は、その国の様々な自然の恵みを上手に調合して作られているので、文化を調べるのには最適なのだそうです。
中華料理ならごま油、フランス料理ならワインの質や調合の割合で料理を考えられます。
日本料理はお水の質や調合の割合に重きを置いて作られていますね。
確かに、日本でとれるお米は日本のお水の質によって全く美味しさが変わってきます。
料理にこだわっていればいるほど、お水にたどり着いています。
食と同じように、日本の植物で行う染色は日本のお水の質によって染め具合が全く変わるってくるということですね。
そしてお水の質にこだわり黄櫨染を研究し続けたところ、オリジナルの「夢こうろ染め」が誕生しとそうです。
染める染料により、微妙に水の質を変えることにより太陽の光があたると
- 墨・・・エンジ
- 紺・・・ワイン
- 緑・・・茶
- 茶・・・赤茶
のように、染めた色が変わっていく神秘的な染めを発見したそうです。
今回の展示会はそんな奥田裕斎さんの研究の元、開発された夢こうろ染の着物や帯やタペストリーなど様々な作品が展示してありました。
下の画像は自分の好みで様々なアレンジができるストールです。
私は羽織風にアレンジして合わせてもらいました。
下の画像の帯の下の方にある↑(やじるし)の柄をよく見てください。
光を当てたら傘に変わるのが分かり夢こうろ染の特徴が一目でわかります。
私が合わせてもらったのは、下の画像のようなかっこいい感じの紋紗のお着物です。
紋紗は最近人気の生地ですが、その特徴の透け感が夢こうろ染めの特徴をさらに引き出していて、絶妙な染の着物になっていました。
他にも、歌舞伎界や芸能界での著名な方からオーダーを受けた下のような着物が会場を埋め尽くします。
光を当たる前の着物。
光を当てた後の着物は色が変わっているのが分かりますね。
こちらの着物も変化の違いが画像の下にあるのですが、右の写真が光を当てる前で、左が光を当てた後の写真です。
こちらの着物も光を当てる前と当てた後では、柄の色が違います。
光を当てた後は上品な紫に近い色が浮き上がり、とても神秘的です。
こちらのタペストリーは、漫画「北斗の拳」の原哲夫先生とのコラボ作品です。
今回の展示会でさまざまな奥田裕斎さんの作品を見て感じたことは、
「どれも現代的で、かっこいい染め」
ということです。
日本の絶対禁色から研究してたどり着いた作品には、ほこり高き日本の文化とアートな美しさで、見る人を引き付ける力がありました。
ご本人も講演会で仰っていましたが、「かっこいい日本」「かっこいい女性」を求めて作品を作っているそうです。
古来からの日本独特な文様や色つかいではなく、他にはない独創的な作品。
世界に認められた奥田裕斎さんならではの、感性があふれた展示会でした。
以上が、今回の展示会に行ってきましたシリーズの紹介です。
私は今までに様々な展示会に行ったことがあり、どれも作品の歴史や作り方を十分に理解できる展示会でした。
しかし、これほどまでに作り手の世界観や作品の特徴を、上手に引き出している展示会はありませんでした。
絶対禁色の染の調査の許可が下りるほど、染に関して一途な奥田裕斎さんの作品。
着物好きとして、これからも注目して行きたいです。