「人間国宝の作った着物」
それだけで高価で上級というのは分かり、誰もが一度はお目にかかりたい憧れの着物。
着物の人間国宝と聞くと「おしどり」などが思いつきますが、いったいどの作家さんの着物なのかや、着物の人間国宝って何人ぐらいいるのか気になりますよね。
そこで今回は着物の人間国宝について紹介したいと思います。
着物の人間国宝一覧
着物の人間国宝と言われる人々は、文部科学大臣が指定した重要無形文化財にあたる技法や工程などの「わざ」の保持者として、個人で認定された人たちのことです。
着物の技法や工程の「わざ」は重要無形文化財の染織の部門にあたり、認定された人が亡くなると、認定解除されてしまいます。
そうした方たちを含み現在までに着物に関わる染織の部門で認定された人は計45人みえ、「わざ」の種類は28種類にもおよびます。
まずは、種類別に着物の人間国宝の方々を認定年月順に紹介します。
(2018年9月時点での存命者は太文字で表記します)
江戸小紋 | 小宮康助(昭和30年)、小宮康孝(昭和53年) |
長板中形 | 松原定吉(昭和30年)、清水幸太郎(昭和30年) |
友禅 | 田畑喜八(昭和30年)、木村雨山(昭和30年)、中村勝馬(昭和30年)、上野為二(昭和30年)、森口華弘(かこう)(昭和42)、山田貢(みつぎ)(昭和59年)、羽田登喜男(はたときお)(昭和63年)、田島比呂子(ひろし)(平成11年)、森口邦彦(平成19年)、ニ塚長生(ふたつかおさお)(平成22年) |
友禅楊子糊(ようじのり) | 山田栄一(昭和30年) |
正藍染 | 千葉あやの(昭和30年) |
型絵染 | 芹沢銈介(昭和31年)、稲垣稔次郎(としじろう)(昭和37年)、鎌倉芳太郎 |
羅 | 喜多川平朗(昭和60年)、北村武資(たけし)(平成7年) |
精好仙台平(せいごうせんだいひら) | 甲田栄祐(昭和31)、甲田綏郎(よしお)(平成14年) |
唐組 | 深見重助(昭和31年) |
有職織物 | 喜多川平朗(昭和60年)、喜多川俵二(平成11年) |
献上博多織 | 小川善三郎(昭和46年)、小川規三郎(平成15年) |
紬縞織・絣織 | 宗廣力三(昭和57年) |
紬織 | 志村ふくみ(平成2年)、佐々木苑子(平成17年)、 |
佐賀錦 | 古賀フミ(平成6年) |
紅型(びんがた) | 玉那覇有公(たまなは ゆうこう)(平成8年) |
綴織 | 細見華岳(平成9年) |
刺繍 | 福田喜重(平成9年) |
首里の織物 | 宮平初子(平成10年) |
読谷山花織(ゆんたんざはなうぃ) | 与那嶺貞(よなみね さだ)(平成11年) |
芭蕉布 | 平良敏子(平成12年) |
経錦(たてにしき) | 北村武資(たけし)(平成12年) |
木版摺更紗(もくはんずりさらさ) | 鈴田滋人(平成20年) |
紋紗(もんしゃ) | 土屋順紀(よしのり)(平成22年) |
伊勢型紙(突彫) | 南部芳松(昭和30年) |
伊勢型紙(錐彫) | 六谷梅軒(初代)(昭和30年) |
伊勢型紙(道具彫) | 中島秀吉(昭和30年)、中村勇二郎(昭和30年) |
伊勢型紙(縞彫) | 児玉博(昭和30年) |
伊勢型紙(糸入れ) | 城ノ口みゑ(昭和30年) |
上の表から見てもわかるように、北村武資さんは「羅」と「経錦」、喜多川平朗さんは「羅」と「有職織物」と1人で2種類の認定を受けている人もいるのですね。
ちなみに人間国宝は決め方は、年一回、国が全国的な観点から調査して認定するので、申請や推薦ではなれないものだそうです。
そうしたことからも、国家レベルで保護したい無形の文化として認められた人間国宝の方々が作る着物って、どんなものなのか気になりますね。
そこで、おしどりをはじめとする、人間国宝で有名な作家さんの着物を紹介します。
おしどりの作家や有名作家さんはだれ?
着物の世界に足を踏み入れたら、やはり最高級品と言われる重要無形文化財の認定を受けた人間国宝の方々の着物について知っておきたいですよね。
1950年(昭和25年)に文化財保護法によって初めて無形文化財が法的に位置づけられてから(当時は選定無形文化財)着物に関係する人間国宝の方は45人います。
無形文化財は「わざ」に対しての認定なので、直接着物をつくる人ではない方も見えますが、認定されたわざを使い作られた着物は今までに数々存在します。
中でも有名な作家さんと言われる方々下記の7人とそのわざを使った着物を紹介します。
- 羽田登喜男
- 北村武資
- 森口邦彦
- 玉那覇有公(たまなは ゆうこう)
- 平良敏子(たいらとしこ)
- 土屋順紀(よしのり)
①おしどり作家「羽田登喜男」
まず初めに、人間国宝の着物として代表的な下の「鴛鴦(おしどり)」の文様が描かれた着物があります。
こちらのおしどりの文様で有名なのが、昭和~平成時代(生1911~2008)に活躍した染色家の羽田登喜男氏です。
友禅作家として知られる羽田登喜男氏は、京都の庭園や自然を愛し、野の草花など花鳥風月を材にした着物が有名で、中でも鴛鴦(おしどり)文様は羽田登喜男氏の代名詞的な存在です。
加賀友禅を学んだ後に京友禅を学び、この2つの友禅を合わせた独特の世界観を作り出しました。
昭和61年に京都府民を代表してダイアナ妃に送られた振袖、「瑞祥鶴浴文様」を制作したことも有名ですね。
②羅と経錦の2つの人間国宝「北村武資」
重要無形文化財の染織部門で1人で2種類の羅と経錦で人間国宝の認定を受けた北村武資氏は、1935年京都で生まれで地元西陣で織の世界に入りました。
1995年、羅(ら)織の復元の功績が認められて人間国宝に認定されて、2000年には経錦(織り)でも技術と功績が認められ人間国宝に認定されています。
織の世界は奥が深くて詳しくは分からなくても、北村武資氏が作ったと言われるだけで一度は手にしてみたいものですね。
③三越でおなじみの「森口邦彦」
友禅作家で近年再び話題になったのが、2014年に新しくなった三越のショッピングバッグのもとになった森口邦彦氏の着物です。
友禅作家であり親子二代にわたって重要無形文化財保持者(人間国宝)である森口邦彦氏は、昭和16年2月18日生まれ。
京都市立美大(現京都市立芸大)日本画科卒業後に、パリ国立高等装飾美術学校でグラフィック・デザインをまなんだ後、父である森口華弘(かこう)氏のもとで友禅にたずさわる。
美大や海外でのデザインの学びが、着物に反映された幾何学的なデザインが、着物の文様としては斬新で近代的に感じますね。
④琉球紅型「玉那覇有公(たまなは ゆうこう)」
着物と言えば日本を代表する染織地域、沖縄から栄えた琉球紅型の唯一の人間国宝「玉那覇有公(たまなは ゆうこう)」氏
琉球紅型と言えば、琉球紅型宗家城間家が有名ですが、玉那覇有公氏はその城間家の十四代・城間栄喜(しろま えいき)に師事した人物です。
城間栄喜氏の長女の道子さんと結婚し、長男の城間栄順と共に工房を支えながら人間国宝に認定されました。
南国情緒あふれる沖縄から作られる、紅型独特の色彩は見ているだけで華やかで晴れやかな気分にしてくれますね。
⑤芭蕉布の「平良敏子(たいらとしこ)」
喜如嘉の芭蕉布と言えば、夏の着物の最高級品と言っても過言でないほど自然布の代表作品ですね。
そんな芭蕉布の復興に生涯をつくす平良敏子さんは、49年に重要無形文化財に指定された喜如嘉(きじょか)の芭蕉布保存会代表も務めておられます。
沖縄県大宜味(おおぎみ)村で絶える寸前だった芭蕉布は、糸芭蕉から苧績みした糸から作られますが、平良敏子さんは、糸芭蕉を育てる事から復興に取り組みました。
糸芭蕉は植えてから糸がとれるようになるまでは3年程かかり、刈り取り、茎の皮を剥ぎ、灰汁で煮て乾燥させた後、繊維を手で績み糸は完成します。
糸作りから、織りあげるまで全ての工程のわざを復興させた平良敏子さんの芭蕉布から伝わる感触を一度は体感したいものですね。
⑥紋紗(もんしゃ)の「土屋順紀(よしのり)」
近年の夏が近づくとよく耳にする紋紗の着物は、平成22年に土屋順紀(よしのり)氏に認定された比較的新しいわざの織物です。
昭和29年岐阜県生まれの土屋順紀(よしのり)氏は、昭和53年紬織(つむぎおり)の人間国宝の志村ふくみに師事しています。
その後平成8年に羅(薄絹)の人間国宝の北村武資に師事し、22年に自身も紋紗で人間国宝となりました。
紋紗という種類の生地ができたおかげで、湿気が多く過ごしにくい日本の夏の着物を、快適に着れるようになった人は沢山いるのではないでしょうか。
⑦江戸小紋には欠かせない伊勢型紙の六谷梅軒(初代)
これぞ手先の器用な日本の文化ともいえる伊勢型紙の人間国宝、六谷梅軒(初代)氏による江戸小紋は、誰が見てもわかるわざによって作られています。
六谷梅軒(初代)とは、着物の染織ではなくて、着物の染めに使う型紙の彫刻師です。
しかしながら、六谷梅軒(初代)が作った型紙で染められた着物は、極々細密で誰が見てもそのわざの凄さに圧倒されます。
明治40年生まれで、父と兄に伊勢型紙錐彫(きりぼり)の技術をまなんだ六谷梅軒氏は、昭和17年に江戸小紋の人間国宝の小宮康助のすすめで、さらに細密な極(ごく)鮫小紋を研究しました。
昭和30年に人間国宝に認定されて、昭和48年66歳で死去されていまが、長男の博臣が2代目六谷梅軒として型彫りや染め技を受け継いでいます。
以上が着物の人間国宝で有名な方々ですが、やはり人間国宝ともなると、時を得るほどその価値は高くなっていき、今も着物通の間では人気の着物です。
新品では高価すぎて買えないけれど、中古なら手が届くかもと、リユースでの着用の需要も増えています。
そんな中、家で眠っている人間国宝の着物を買取に出そうか悩んでいる場合もあるのではないでしょうか?
そこで、最後に人間国宝の着物の買取価格の相場を見ていきましょう。
人間国宝の着物の買取価格の相場は?
着物だけでなく、人間国宝の手掛けた作品となるとやはり高価になることは予想は付くけど、大体の相場も気になります。
そこで、人間国宝の着物の買取価格について調べてみました。
結論から言って、人間国宝の着物は保存状態にもよりますが、買取価格に大幅に開きがあり相場を割り出すことも難しく、美術品扱いの物や希少価値のあるものは値段の公開もされていませんでした。
大手着物買取業者に問い合わせてみても、
「現物見ないと何とも言えません」
の一点張りでした。
とは言っても、国に認定された人間国宝が手掛けた着物は一般的な着物よりは高値で買い取ってもらえるのは間違いないですね。
人間国宝の着物の場合、着物としての価値は無くても、美術品として必要な部分だけを再利用する人がいたりするので、全く価値がなくなることは少ないようです。
買取業者によっても、査定価格はかなり変わってきたりするので、着物の買取を検討中の場合は何軒かの業者に見積もり依頼をすると、その着物に見合った相場が見えてくると思います。
人間国宝の着物ですから購入された時も相当高値だったでしょうから、買取価格も少しでも高値で買い取ってもらえる業者に依頼したいですね。
以上が人間国宝の着物の紹介でした。
着物は日本を代表する文化とよく言われますが、その文化とは見た目から判断できるものではなくて、一見してわからない匠の技の集結からなしえる物だと感じます。
人間国宝の認定を受けたわざ、技法や工程こそが着物の本当の価値であり、せっかく着物に興味をもったなら、その世界を学んでみるのも良いですね。