ただでさえ暑い夏に着る着物は、なるべく涼しく快適な着物をきたいですよね。
夏着物には様々な着物の素材がありますが、素材が違うだけで体感する暑さが全然変わってくるので、夏は特に素材を重視して着物選びをすることが大切です。
夏着物は別名「薄物」とも呼ばれていて、今回はこの薄物代表の絽(ろ)・紗(しゃ)・麻(あさ)の素材の特徴や洗い方など紹介したいと思います。
夏着物の素材の特徴や洗い方などのお手入れ方法などを知ることで、より快適な夏着物を楽しむことができるようになりますよ。
夏着物の絽・紗・麻で洗える素材はなに?
いくら涼しい素材の着物を着ていても、夏に着物を着るとどうしてもかいてしまう汗。
汗はそのままにしておくとカビやシミの原因になってしまうので、直ぐに洗いたいのが本音ですね。
夏着物でよく聞かれる絽・紗・麻の中で自分で洗える着物は麻のみです。
しかし上布と呼ばれる高級麻や、国の重要文化財に指定されている伝統的な技法で作られている麻の着物(縮)はお値段もかなり高級なので自分で洗う人も中には見えますが、よほどの上級者だと思います。
絽・紗は絹でできているためこちらも縮みが起きてしまうので、自分で洗うのは避けた方が良いでしょう。
正確に言うと絽・紗と言うのは素材の名前ではなく織り方の名前になりますので、絽・紗などでも洗える素材(ポリエステル)でつくられている着物だと、自宅で自分で洗うことが可能です。
最近はもっと技術が進み特殊な加工をほどこした絹も登場して、絹なのに自宅で洗濯できる物(私が知っている限りでは長襦袢)もあります。
本来は絹や麻などから作られていた着物も、時代の流れと共に機能性や快適性を考慮した素材が開発され、現在は自宅で洗えるうえ、夏にも快適な着心地の物もあるということですね。
では実際に「絽・紗・麻」はどのような特徴の着物かを紹介します。
夏着物の「絽・紗・麻」とはどんな着物?
夏着物は主に7、8月(盛夏)に着る着物をさしますが、最近は温暖化の影響を受け6、9月でも暑い日が続き夏単衣なども夏着物の一種ですね。
夏着物の代表的な素材としてよく耳にする生地に隙間がある絽や紗や、麻でできた着物などの種類にはどのような違いがあるのかや、特徴などを紹介します。
夏着物の絽とはどんな着物?
絽とは正確には生地の織り方の名前です。
二本の経糸(たていと)をもじりながら緯糸(よこいと)と織り込んだからみ織をして間に平織りをすることで、生地に隙間ができ、透け感のある涼しげな生地のことです。
絽の織り方
七本絽、九本絽といったように織り方の違いで本数が変わっていき数字が大きくなるほど隙間が少なく、透け感が控えめです。
また、経糸で隙間をを作る経絽という織り方の着物もあり、普通の絽より透け感の少ない生地です。
絽は織り方の名前なので素材は、絹でできている夏の代表的な染下地です。
染下地の生地(白生地)として織られて、後から柄染めをする絽は留袖、訪問着、色無地、小紋などとして作られます。
そのため、結婚式やお茶席などのフォーマルの席にふさわしい少し格の高い着物です。
絹でできている絽は、絹の特徴である吸湿性・通気性にすぐれているので、夏は涼しいです。
お蚕さんの天然繊維でできている絹は、肌触りがとても滑らかでやわらかく自然の気候に対応してくれる繊維なので暑い夏でも快適な着心地でいられます。
自分で自宅で洗濯ができるようなポリエステル生地で織られている絽もあります。
最近はもっと技術が進み、特殊な加工がされて絹なのに自宅で洗濯できる生地などもあります。
絽は着物だけでなく、長襦袢、半襟、帯揚げなどにも使われる生地です。
夏着物の紗とはどんな着物?
紗とは正確には生地の織り方の名前です。
紗は二本の経糸で緯糸一本ずつをからめて織り上げたシンプルなからみ織で、絽以上に透け感があり軽いので盛夏用の着物、長襦袢、帯揚げなどに使われます。
紗の織り方
主な産地に西陣、桐生、五泉などがあります。
紗はカジュアルからセミフォーマルまで幅広く着られる生地になりますが、絽に比べてワンランク下の生地になるため、格を重んじるシーンでは避けたほうが無難です。
紗には、紗合わせ(絽の生地の上に紗の生地が重なっている着物)や二重紗(紗の二枚重ねの着物で無双とも呼ぶ着物)などと呼ばれる着物もあります。
紗合わせや、二重紗は紗が二重になっていて見た目は涼し気ですが、重なっているだけに生地が厚くなりますので7,8月の盛夏には不向きですね。
紗も絹でできている紗は、絹の特徴である吸湿性・通気性にすぐれているので、夏は涼しいですが自宅での洗濯は縮むので避けた方が良いでしょう。
夏着物の麻とはどんな着物?
麻の着物は植物の麻(苧磨チョマ)から作られたサラッとした生地で、肌にまとわり付かない着心地の良い着物です。
麻の着物でも上布と呼ばれる「越後上布」「能登上布」「宮古上布」「八重山上布」など上質な麻でできた着物の中には国の重要無形文化財にも指定されている高級な着物もあります。
しかし、麻で作られたどんなに高級な着物でも普段着としてしか着る事はできず、社交の場には不向きです。
一方、近江縮や小千谷縮など縮と呼ばれる麻の着物もあり、一般的には上布ほど高値ではありませんが、作り方の技法によっては国の重要無形文化財に指定されている高価な小千谷縮も存在します。
麻の一番の特徴は自宅で洗濯できることですが、国の重要無形文化財に指定されている麻などはとてつもなく高価なので、自分で洗濯している人は少ないと思います。
以上が絽、紗、麻の着物の紹介でしたが、年々暑さが増す現代は見た目の涼しさより着た時の涼しさを重視してコーディネイトを考える方が着物をより快適に楽しむための秘訣に感じます。
そんな快適さを重視して、色々な種類のある夏着物で暑い日におすすめな素材の種類を紹介します。
暑い日におすすめの素材の種類は?
夏に着る着物を選ぶときに一番考慮したいのは、やはり着心地ではないでしょうか。
何もしなくても暑苦しい気温の高い日に、決まりやルールに縛られ我慢して暑い着心地の着物を着て体調を壊しては元も子もありません。
いくら6、9月だからといって無理やり単衣の着物を着るのではなく、その日の気温に合わせて7,8月の盛夏用の絽、紗、麻の着物を着る事をおすすめします。
絹でできている絽や紗は通気性に優れ吸湿性にも優れているので暑い夏こそ絹の着物を着るのがおすすめです。
絹の着物は洗濯に困りますが、最近は絹の絽や紗でも、自宅で洗濯できる特殊な生地で作られている物もあるので、汗を沢山かいても安心して着物を楽しむことができます。
しかし、私の知る限りでそういった生地でできている物は長襦袢しか知りまんので、長襦袢で洗濯ができる絹の物を取り入れて、汗をかいたら長襦袢で吸収しておくようにすると良いですね。
ポリエステルでできている絽や紗は洗濯が容易にできるのは便利ですが、通気性も吸湿性も悪いため熱と汗がこもる為、暑さをより感じてしまうため夏に着るのはおすすめしません。
絽や紗は染め物ですので留袖、訪問着、付け下げなどは、お出かけ用の格のある夏着物になります。
絽の留袖
普段着としての夏着物は絽や紗でできた小紋が良いでしょう。
紗の小紋
他の普段着の着物には夏大島や、夏結城など紬地でも夏専用の紬の着物をおすすめします。
夏大島
自然素材の麻でできている着物もサラリとしていて肌にまとわりつくことがなく風を通してくれるので夏にはおすすめの素材です。
小千谷縮
以上が夏着物におすすめの素材でした。
次は絽・紗・麻をはじめとする夏着物の着用時期を紹介します。
夏着物の着用時期
夏に着るのに良い着物の素材やおすすめな種類にも下の様におおよその着用時期が決められています。
しかし、昨今の夏の暑さは年々増すばかりで、かつての認識で作られた着用時期の着物ではとても暑くて着ていられない日も多々あります。
以前は薄くて透け感のある「薄物」と呼ばれる着物(絽・紗)は7,8月限定の着物の認識でしたが、最近は6,9月で着ていてもあまり指摘をされなくなってきました。
私は5,10月と言っても30度を超える日などは、濃い色の長襦袢を着た上に薄物の着物を着る事はよくあります。
体感温度はまだまだ盛夏なのに決まりだからと言って、その日の気温にそぐわない着物を着て体調を崩してまでいたら、好きな着物も嫌いになります。
服飾評論家の市田ひろみさんが5,9月に着るとされている単衣(ひとえ)と言う着物を一年中着ると宣言してくれたおかげで、人々の決まり事の認識も柔らかくなったというお話もあります。
「利休道歌」の中に「規矩(きく)作法守り尽くして破るとも離るるとても本(もと)を忘れるな」の「守・離・離」の心ですね。
決まりごとはあくまで目安として参考程度にとどめて置いて、その日の自分の体調や気温などを考慮した着物を着ることが、今の時代の着用時期だと思います。
以上が、夏に着物を着る時の素材の選び方でした。
最後に今回の記事のまとめは下記になります。
- 夏着物で自分で洗える素材・・・・・麻
- 暑い日におすすめなお出かけ用の素材の種類・・・・絽、紗でできた留袖、訪問着、付け下げなど
- 暑い日におすすめな普段着の素材の種類・・・・・絽、紗でできた小紋、麻、夏紬(夏大島、夏結城)など
夏になるとどうしても着物を嫌煙しがちですが、素材を考慮したり着付けで衣紋を多めに抜くなど夏の暑さ対策をすることで少しでも快適に着物を楽しみたいものです。
着物上級者は
「夏こそ着物」
とよくいわれます。
暑い夏に涼しい装いをして快適に着こなす事こそ、着物通と言うことなのでしょうね。